「欧州企業と人権(4)苦情処理メカニズム」 ――下田屋毅の欧州CSR最前線(28)
前回は、人権デュー・ディリジェンスの「人権影響評価」、「適切な対処の為の行動」における欧州企業の先進事例や効果的に実施する方法・ポイントをお伝えした。今回は人権デュー・ディリジェンスの「継続的追跡評価」「情報提供」、そして「苦情処理メカニズム」についてお伝えする。Yahoo Japan and Alterna online carries Sustainavision Managing Director Mr Shimotaya’s article”European Companies and Human Rights (4) Grievance Mechanism” on 24th of May 2013 (Japanese site).
追跡と報告
追跡評価は、人権デュー・ディリジェンスが機能しているかを確認し、必要に応じて改善を行うプロセスのことである。「苦情処理メカニズム」は、追跡の重要な方法とされる。また、企業にとって人権に関する苦情の報告は、企業がどのように対処しているかをステークホルダーに伝える重要な役割がある。
英国の「人権とビジネスに関する研究所(IHRB)」の調査によると、「企業は、人権パフォーマンスについてそれだけを追跡し報告することをしていない。他のサステナビリティの要素やCSRのパフォーマンス測定に統合している」という。
パフォーマンスの評価
IHRBの調査によると、「人権に関する重要業績評価指標(KPI)は、非常に重要な要素と考えられているが、現時点ではまだまだ改善が必要」としている。そして「企業が本来評価項目に入れなければならない重要なものの代わりに、安易に測定できる定量的なことを優先してしまう可能性があるので、定性的な分析は引き続き必要」と強調する。
IHRBによると、人権のパフォーマンス向上のための「追跡と報告」の具体例は以下のとおり。
- データベースの活用や、従業員アンケートを通じて人権に関するデータを収集
- 自己評価、ホットラインの報告
- 重要業績評価指標(KPI)を策定し、長期間、業界他社との結果を比較
- 取引先のモニタリングと監査、結果の報告、改善計画を立案、そのパフォーマンスを向上させる能力構築
- CSR報告書を通じ、人権問題、ジレンマと課題を報告。ケーススタディ、定量的データ、およびプロセスの説明を含む。
- 会社に人権侵害の注意を喚起するステークホルダーとの有意義なエンゲージメントの構築(例:苦情処理メカニズム)。そのエンゲージメントがパフォーマンス評価プロセスの一部となること。
企業は一般的に人権侵害を報告したがらない傾向がある。それは、法の抵触を危惧することと、名声に傷がつくのを恐れてのことである。しかし、それらを踏まえた上で、内部告発を含む「苦情処理メカニズム」の人権侵害に関するデータを公表する企業が出てきている。
ザ・コカコーラ・カンパニー(本社アトランタ)では、「苦情処理メカニズム」を機能させるため「人権と職場の権利方針」についてトレーニングの実施や、コミュニケーション・教育を強化した。従業員は、「倫理ライン」を含む多数のルートを通じて報復の心配なしに、違反についての報告をすることができ、すべての質問は、秘密裡に対処され、全ての懸念について会社が調査する。
2010年の苦情件数は118件だったが、2011年は、426件と増加した。
2011年の苦情報告の内訳は、①報復と嫌がらせ含む差別、211件(全体の50%)②労働時間や賃金、 114件(同27%)③職場の安全保証、43件(同11%)④職場の安全衛生、36件(同9%)⑤結社と団体交渉の自由、2件(同1%)⑥強制労働、3件(同1%)。
この件数の増加は、子会社であるコカコーラエンタープライズ社の北米事業の買収における約65,000人の従業員の追加、そして「人権と職場の権利方針」に関して、コミュニケーション・教育の実施による意識の高まりにより「苦情処理メカニズム」が機能するようになってきていると自社分析している。
苦情処理メカニズム
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」では、救済制度として、「苦情処理メカニズム」を企業に提案している。人権に関する苦情を処理し改善するメカニズムは、企業にとって目新しいものではない。例えば、内部告発制度、苦情処理制度、ホットライン、ピア・サポート・ネットワークなどと呼ばれる仕組みを既に持っている。しかし、今までの仕組みは主に社内ステークホルダー向けであるが、指導原則が求めているのは、企業活動によって影響を受ける社内外すべてのステークホルダーが「苦情処理メカニズム」へアクセスできることである。
事業者レベルの苦情処理メカニズムは以下の時に有効であるとされる。
- 正当性があること
- アクセス可能であること
- プロセスの流れの予測が可能であること
- 公平であること
- 透明性があること
- 権利に矛盾していないこと
- 継続的な学習の源となること
- エンゲージメントと対話に基づいていること
指導原則に則った「苦情処理メカニズム」を導入するに当たっては、現状の仕組みとのギャップ分析、特に鍵となるのは、今まで含まれなかった社外のステークホルダーに対する「苦情処理メカニズム」の仕組みの構築である。
「苦情処理メカニズム」は、欧州CSR先進企業においても機能させるのが難しいとされている。企業として、苦情処理の仕組みは持っているが、機能しているか疑問である状況であるとのこと。
「苦情処理カニズム」で重要とされるのは、苦情のタイプ・背景によって異なった対応が必要なことである。従来の「会社と従業員」という構図でなく、異なる地域事情や文化的背景の中で、外部ステークホルダーへの状況説明や解決策が望まれているのである。
世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタル社(本社ルクセンブルク)は、2012年、従業員内部告発制度と苦情処理メカニズムを通して、人権、環境、安全衛生に関わる苦情を全社で1,481件を受けた(2011年は598件)。また、同じく2012年、世界26の地域で、コミュニティに対する「苦情処理メカニズム」を導入し、外部のステークホルダーから、人権、環境、安全衛生に関する苦情を831件受けたと報告している。
以上4回に渡り、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に則った、欧州企業の人権に関する取り組み度合いや、事例を確認した。お伝えしたとおり、まだ欧州においても、誰でもがこの取り組みについてはスタート地点にいる状態であるとのことだ。国連ビジネスと人権に関する指導原則に則り、自社の人権プログラムを長期的な視野に基づき作成・改善を是非進めて欲しい。
(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)
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