「欧州企業と人権(2)人権方針と研修」 ――下田屋毅の欧州CSR最前線(26)

前回は、欧州企業の人権への取り組みにおいて、まず現状でそれぞれの企業が持っている人権プログラムと「国連ビジネスと人権に関する指導原則」とのギャップ分析を行い、何が今まで出来ていて、何を今後する必要があるのかを検討しているということをお伝えした。今回は人権方針の声明、人権研修についてお伝えする。Yahoo Japan and Alterna online carries Sustainavision Managing Director Mr Shimotaya’s article “European Companies and Human Rights  (2) Human Rights policy and training” on 18th of July 2013  (Japanese site).

「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の中で、「人権方針には、人権を尊重する責任を定着させるための基礎として、企業は、その責任を果たすコミットメントを明らかにすべき」とされている。 その人権方針の作成の中の満たすべき要件の中に「企業の最上級レベルが承認する。」 がある。企業のトップや取締役が人権に関する企業の取り組みとしてコミットメントし、真剣に取り組みを実施していく姿勢が重視されているのである。

人権に関するグローバル・ビジネス・イニシアチブ(GBI)のプログラムディレクターのサラ・レプチ氏は、「中間管理職やその他の従業員に真剣に人権についての取り組みを実施してもらうためには、CEOを含むトップレベルのマネジメントからの賛同を得ることが鍵となる。そして、トップマネジメントはただ単に賛同するだけではなく、自分の従業員に対してこの人権のトピックスを見せて聞かせることが重要である。」とトップのコミットメント、そして研修の重要性を話す。

世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロールミッタル社(本社:ルクセンブルク)の人権方針はCEO以下執行役員8人のコミットメントを表す署名を掲載し、企業としての人権への取り組みの真剣さをうまく伝えている。

人権方針作成のポイントは次の5つ

  1. 企業の最上級レベルが関与し承認する
  2. 既存のコミットメントや方針を特定し、評価する
  3. 人権リスクマッピングの実施の検討
  4. プロセスに社内/外のステークホルダーを関与させる
  5. 高水準の文献の参照、実践的な説明を含むことを考慮し、人権方針の声明を開発する

「国連ビジネスと人権に関する指導原則」によると、人権方針について、「声明及び関連する方針の内部通知や手続は、(中略) 関連する業務に従事する従業員に必要とされる研修などによっても支援すべきであることを明確にすべきである。(中略)適切な手段を通じて、企業トップから全ての部門にいたるまで定着するようにすべきである。さもなければ、各部門が人権に対する意識や考慮なしに行動することになりかねない。」とある。つまり人権方針の徹底の為の研修の重要性を訴えている。

GBIのレプチ氏は、「人権に関する研修は必須である。欧米でも、企業内部で人権という言葉自体話すことはないし、企業内で人権が何を意味するのかもよく知らない。GBIでは、毎日このような話と遭遇し驚いている。しかしこれが現実である。人権という言葉を翻訳することは大切である。人々がいつも使用している言葉で人権を説明し、そして、新しいコンセプトとして適用することが必要だ。」と話す。

日本では、欧州の企業は人権について認識の上で非常に進んでいるように考えられているかもしれないが、実際には、全ての企業の取り組みが進んでいるということではなく、人権について理解が不十分という現状があるようだ。そして全体的に人権に関する認識を高める必要性を感じ、企業に対して研修の徹底を促しているのが実情だ。

GBIのレプチ氏によると、人権の研修プログラムは、以下を考えてデザインすることが必要とのこと。
① 対象となる人を良く知っていること
② 人権を尊重しようとしている人の意欲を減退させるような人権の課題について理解すること。(人々は一般に人権侵害をしたいとは思っていない)
③ それらの人権課題を解決する為の解決策を見つける手助けをするものであること

人権コンサルティング会社トエンティ・フィフティのディレクターのルーク・ワイルド氏は、「単に人権に関する意識向上を促すことだけで、多くの企業が様々なことを達成することができる。」と話す。また、ワイルド氏は、「企業が作成した人権のフレームワークと企業の実施にもギャップがあり、そのギャップを埋める為にも研修が必要となる。」と人権プログラム実施の際の研修の重要性についても話す。

人権に関する研修については、先進企業は取り組みを徹底している。
ザ・コカコーラ・カンパニー(本社:アメリカ)では、2011年に人権声明と職場の権利に関する方針の研修会(45分)を開催、約8,600人が参加したという。

また、アルセロールミッタルは2011年、全従業員14万7千人が人権研修を受講。7言語による人権のオンライン研修、また、人権の研修を担当することができる指導員の育成にも力をいれ、指導員向けのワークショップも開催している。

企業の中での人権というものが何を表しているのか、そして、企業がどのように人権に影響を与えているのか、誰と関係があるのか、管理者がするべきこと、またできていないことは何か、などを一つ一つ明確にして行くと良い。本文が人権方針の作成、人権研修に取り組むきっかけとなれば幸いである。
(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

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