「ビジネスと人権フォーラム」でジョン・ラギー教授は何を話したか ――下田屋毅の欧州CSR最前線(22)

2012年12月4、5日の2日間にわたり、国連人権理事会が主催する初めての「ビジネスと人権フォーラム」が、スイスのジュネーブで開催された。会議には、40カ国の政府、150の企業、170の市民社会組織の代表ら、85カ国から1000人以上が参加した。Alterna online carries Sustainavision Managing Director Mr Shimotaya’s article about ”What John Ruggie said in his speech at Forum on Business and Human Rights”  (Japanese site)

「ビジネスと人権フォーラム」では、2011年6月に国連人権理事会で採択された「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の実施を主な議題とし、政府と企業は経済活動による住民や労働者への影響にいかに対処すべきかについて議論がなされた。

■ 「ビジネスと人権フォーラム」の主要目的とは

この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、「保護・尊重・救済のフレームワーク」として、企業活動による人権への悪影響の防止、対応、企業活動により権利を侵害された人の効果的な救済など、政府と企業の取り組みに関する31の原則が規定されている。

この国連人権理事会の「ビジネスと人権フォーラム」の議長には、前事務総長特別代表のジョン・ラギー教授が務め、「ビジネスと人権フォーラム」の主要目的として以下が掲げられた。

  •  全ての地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話をする為の主要な会合場所を提供する。
  • 「ビジネスと人権に関する指導原則」を世界的に拡散し、実施を促進する。また、効果的で包括的な実施に向けたエンゲージメントを強化する。
  • 「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施にあたって、トレンドと課題、そして模範事例を見つける手助けをする。

この「ビジネスと人権フォーラム」のオープニングスピーチで、ジョン・ラギー教授は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則の影響により、多くの企業が、人権方針と人権デューディリジェンスを導入し、不服申立制度(グリーバンス・メカニズム)は著しく増加している」と述べた。

さらに「この指導原則の中心的要素は、OECD多国籍企業ガイドライン、公的輸出信用機関の為のOECD共通アプローチ、IFCサステナビリティ原則と運用基準、ISO26000、ドッド・フランク金融規制改革及び消費者保護法1502条(紛争鉱物)などに統合されてきている」と続けた。

また、ジョン・ラギー教授は、現段階で「能力開発」、「指導原則の幅広い理解」、「国際法のさらなる発展と域外管轄権の問題」の3つの懸念があるとしながらも、これらの懸念に関する疑念を排除していくと述べている。

■ 「中小企業の為の人権入門ガイド」も発行

この「ビジネスと人権フォーラム」は、国連人権理事会の中で、2012年中作業部会の4回にわたるセッションを経て、今回初めて開催されたものだ。今後年1回のイベントとして開催を予定されている。

欧州委員会は、この「国連ビジネスと人権フォーラム」において、「中小企業の為の人権入門ガイド」を発行したと発表。このガイドは、なぜ人権が欧州の中小企業に関連しているのか、そして、どのように中小企業が人権リスクについて取り組めるのかについて説明している。

人権は、CSRの要素の中での重要性が増してきているが、今まで欧州では、「人権」に関する実用的な中小企業の為にアドバイスするものはなかった。このガイドの開発は、2011年10月に発効した欧州委員会のCSR戦略の中で、欧州委員会がアジェンダに入れているうちの一つである。

また、欧州連合は、石油&ガス、情報通信技術(ICT)、人材紹介会社の3つの重要な業界の企業向けに人権ガイドの開発についてもサポートしている。このガイダンスは、欧州企業の特別な環境を考慮する一方、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、グローバルに適用できるものを目標としている。

この3つの業界のドラフトガイダンスは12月に発効され、これについてのコメントを12月初旬から2013年1月末まで受け付けている。そして、このコメントの受付を経て、業界別のガイダンス文書の最終版が、2013年4月に発表となる予定である。

このように既に国際社会の中では、企業を取り巻く人権について「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に沿った取り組みが始まっており、そしてその企業の人権に関する取り組みをサポートする動きも始まっている。日本企業はこの流れに取り残されないように取り組みを開始することが必要である。

(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

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