[:ja]2016.12.26 Sustainavision News Letter Vol.37:トルコにおけるシリア難民の児童労働
英国在住サステナビリティ/CSRコンサルタント・サステイナビジョンの下田屋です。2016年もあと少し、そして2017年を迎えようしていますが、そのような中皆さんはいかがお過ごしですか?
このニュースレターは、欧州・英国ロンドンからCSR(企業の社会的責任)/サステナビリティについて、ご連絡をさせていただいております。(お名刺交換をさせて頂きました方等ご縁があった方々にご連絡をさせていただいております。)
さて、前回のニュースレターの編集後記で少しお伝えさせていただきましたが、2016年10月24日にBBCのパノラマというドキュメンタリー番組で、トルコの衣料品工場において、シリア難民の児童労働が報道されました。今回は、この「トルコにおけるシリア難民の児童労働」に関する影響をお伝えさせていただきます。
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BBCパノラマで、トルコの衣料品工場において、シリア難民の児童労働や不法労働により欧州の衣料品ブランド向けの衣服が製造されていることが報道されました。
国際的な調達先としてトルコは人気が高く、高品質の製品を迅速に生産するために急成長しました。現在は、バングラデシュと中国に次いで欧州への衣料品と皮革製品の3番目の輸出国となっています。
トルコは、昨今のシリア国内の内戦を受けて、過去5年間で約300万人のシリア難民を受け入れてきました。これらシリア難民は、お金を稼ぐための法的機会がほとんどなく、多くの人がトルコにおいて非公式で衣料品業界で仕事を探しています。
2016年10月24日に報道されたBBCのドキュメンタリー番組である「パノラマ」は、トルコの工場を潜入調査し英国の小売業者のトルコの主要工場で働くシリア難民がいることを報道しています。そしてシリア難民の労働者は、トルコの最低賃金をはるかに下回る非常に低い賃金で過酷な労働環境で働かせられており、労働搾取の状況下におり、どうすることもできない非常に弱い立場にいるとしています。またほとんどの難民は労働許可証を持つことができず、多くは衣服業界で不法に働いていて、路上の仲買人を通じて雇用されている状況もあるようです。
BBCパノラマでは、児童労働によってマークス&スペンサー(M&S)、ASOS向けの衣服を製造していたことを報道。またZARAとMango向けのジーンズ製造工場では、シリア難民が1日12時間以上労働することを余儀なくされ、ジーンズを漂白する有害な化学物質の噴霧に従事していましたが、ほとんどの労働者が保護具着用がなされていない状況がありました。
BBCパノラマ「The Refugees Who Make Our Clothes」の 簡略版
BBCパノラマでこのように報道されましたが、トルコの衣料品工場に発注しているこれら欧州企業は既にこのような状況を理解しこれまでも取り組みを行ってきていました。しかしサプライチェーン管理には限界があり、サプライチェーンの上流までは管理が行き届かないためこのような事態が発覚しています。
この件で、11月下旬にロンドンのカンファレンスで、M&Sの持続可能な開発マネージャーのフィオナ・ウィートリー氏に会う機会があり、彼女から直接話を伺いました。ウィートリー氏曰く、「短期間での反応に対してとても難しさを感じている。M&S単独では、トルコの現地で、我々の全てのサプライヤーにアプローチし契約状況を確認するなど実態を確認し、救済を含めた対応を行うことを考えている。長期的には、どのように我々がこのグローバルな課題に対して対応するのかだが、システマティックに対応することが必要であり、他団体、企業とコレボレーションを行うことが必要と考えている。」と述べています。この問題は、1次サプライヤーだけでなく、2次、3次サプライヤー、さらにその上流でも問題が発生している可能性があり、対応することは簡単ではありません。それ故に、自社単独で実施できる内容と、イニシアティブなどの活用により、より長期的な視野で、システマティックに包括的に、関連団体や同業他社との連携により問題へ対処することが必要だということを話してくれました。
このM&Sの対応に関連する団体として、英国ETI(Ethical Trading Initiative)があります。ETIは、2014年後半に、既にシリア難民の不法雇用に起因するトルコのサプライチェーンにおける問題について懸念を表明。今回報道されたM&S、ASOS、Inditex(ZARA)などの、ETIのメンバー企業は、トルコでの調達を行っていたため関心を示し、責任ある企業としてこの問題に対処し、労働搾取を根絶するために、ETIに援助を求めました。この動きは、企業単独での対応では限界があるとされ、イニシアティブを立ち上げ、企業とNGO、そして労働組合をも巻き込んで対応しようとするものです。
ETIは、この問題に関係するイニシアティブとして「トルコの衣服分野で働くシリア難民プログラム」を立ち上げ支援しています。ETIは、詳細な議論の後、FLA(公正労働協会)とも協力し、2015年3月にイスタンブールで会合を開き、行動のロードマップにも合意しています。その対応策として現在は地域のビジネスと人権のプラットフォームの確立や、ビジネスと人権のデューディリジェンスのリソース開発、そしてより良い苦情処理メカニズムの開発の支援を行っています。
このように、欧州企業は、サプライチェーン上での課題に対してETIのような中立的な立場の団体や、NGOと協働しイニシアティブを立ち上げ、競合関係にある企業とも協力して課題解決に向けた行動を行っています。今回の事例は欧州に近いトルコでの課題対応ですが、欧州企業もアジアにサプライチェーンがあり、アジアでの課題対応においてもイニシアティブにより行動を起こしていくことが今後増えていくものと思われます。
そしてアジアのサプライチェーンにおいては、欧米企業と日本企業が重なる部分があり、今後このようなイニシアティブを協働で行っていく可能性も予想されます。日本企業同士の協働作業ではない、欧米企業との協働作業を視野にいれることが今後必要となります。(了)
【英国でのM&Sのシリア難民児童労働に関する各種報道】
・BBC: http://www.bbc.co.uk/news/business-37716463
・Independent: http://www.independent.co.uk/news/child-labour-sweatshops-refugees-marks-and-spencer-panorama-clothes-sold-in-uk-britain-british-high-a7376706.html
・Telegraph: http://www.telegraph.co.uk/news/2016/10/24/ms-and-asos-among-british-retailers-found-employing-child-refuge/
・Huffingtonpost: http://www.huffingtonpost.co.uk/entry/bbc-panorama-child-syrian-refugees-working-highstreet-shops-clothes_uk_580e407de4b056572d836ed3
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<サステイナビジョンからのお知らせ>
<イベント情報>
【Innovation Forum イベント】
弊社とInnovation Forumとの提携によりコード「 SustVision15」をお申込みの際に入力されますと以下のイベントが15%割引となります。
・Sustainable smallholder development
How to empower farmers and deliver business solutions at scale
開催日:2017年3月14日・15日
場所:ロンドン
※企業が供給の安全保証を確保するためにどのように小規模農家をエンゲージメントするのかなど議論します。
・Sustainable apparel forum
How brands can gain from engaging with the social and environmental challenges facing the apparel industry, from start to finish.
・開催日:2017年6月13日・14日
・場所:アムステルダム
※アパレル業界が直面している社会・環境課題にどのように取り組むことができるのかを議論します。
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<第3回 ビジネスと人権研修>
企業が関わる人権の問題は、国境を越えサプライチェーン上においてカバーしなければならない最重要項目であり、海外において人権侵害を訴えられ、NGOなどから非難されることも実際に起こっています。そのような中、2011年6月に国連人権理事会にて「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認され、この国際的な基準に則って、国と企業がそれぞれ役割を果たすことが期待されています。本研修では、海外のグローバル・コンパクトのネットワーク(ドイツ・英国・スイス・オーストリア・ケニア・インドネシア・ウクライナ)にて導入されている「ビジネスと人権」研修を昨年に引き続き日本においても開催し、グローバルでの人権課題について簡潔で実践的なアドバイスを提供いたします。
・とき: 2017年3月10日(金)・11日(土)両日とも9:00~17:00
(コース終了6ヶ月後の振り返りを行う1日学習も含み、計3日間となります)
・ところ: 東京都港区(お申し込み者に事務局よりご連絡致します)
・対象者: CSR部門、人事部門、資材・調達部門、広報部門、法務・コンプライアンス部門など
・定員: 16名
・主催: サステイナビジョン
・講師: ルーク・ワイルド氏(Twenty Fifty社エグゼクティブ・ディレクター)、下田屋毅氏(サステイナビジョン代表取締役)
・お申込み・お問い合わせ⇒ http://www.sustainavisionltd.com/bandhr/
※詳細説明PDF:http://www.sustainavisionltd.com/wp-content/uploads/2016/12/Business-Human-Rights-training-Mar2017-V1.pdf
※団体割引、NGO/NPO、大学関係者、公務員、中小企業割引あり
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<第14回サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習>
・日時:2017年3月24日(金)・25日(土) 両日とも9:00~17:00
・場所:東京都港区
・定員:15名
※団体割引、NGO/NPO、大学関係者、公務員、中小企業割引あり
お申込み・お問合せはこちら
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<編集後記>
前回のニュースレターから、今までの間に欧州でのカンファレンスに参加をしておりましたが、その中で大きなカンファレンスとして、「第5回国連ビジネスと人権フォーラム」がジュネーブで11月14日~16日までスイスジュネーブで開催され参加してまいりました。今回は、全体での登録者数が2500人と過去最高の人数となり、ビジネスに関わる人権に関しての意識の高まりを感じることができました。また私も現地でのお手伝いをさせていただきましたが、日本からグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンがツアーを組んで参加したこともあり、今回の日本関連の参加者は40人を超えるものと思われます。また吉報として日本がビジネスと人権に関する指導原則に則って国別行動計画の策定に取り組むことを志野光子大使が発表したこともあり、東京オリンピック・パラリンピックを背景として、さらにビジネスと人権に関する取り組みが加速されることが予想されます。この「第5回国連ビジネスと人権フォーラム」については詳細の報告書を発行する予定としていますが、速報として次の記事をご確認ください。
また、Innovation Forum主催の「森林破壊」に関するカンファレンス、「持続可能な砂糖調達」のカンファレンスなどにも参加しておりますので、追ってお伝えさせていただきたいと思います。(もしこれらのトピックにご関心のある方がいらっしゃいましたらご連絡ください)
さて、2016年も大変お世話になりました。2017年もさらに日本企業の皆様のサステナビリティ/CSRの取り組みに関して、皆様が行動を行っていく上で、少しでも貢献できるように活動をしてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
どうぞ良いお年をお迎えください。
(サステイナビジョン下田屋)
最近の寄稿記事はこちらから
【オルタナオンライン&CSR Today】
・世界で加速する人権への関心–下田屋毅の欧州CSR最前線(53)
・現代の奴隷?英国現代奴隷法の日本企業への影響–下田屋毅の欧州CSR最前線(52)
・加速する世界の水リスク対応―協働からイノベーションへ–下田屋毅の欧州CSR最前線(51)
・「GRI国際会議2016」、G4からスタンダードへ――下田屋毅の欧州CSR最前線(50)
【サステナブル・ブランド・ジャパン】
・世界で加速する人権への関心
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・世界の水リスク対応は協働からイノベーションへ
【環境会議】
・2016年秋号:マークス・アンド・スペンサーの戦略的CSRと経営
【東洋経済オンライン】
・ここが変だよ!日本のCSR
【Sustainable Japan】
・第5回国連ビジネスと人権フォーラム(速報)~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~
・英国現代奴隷法、日本企業はどう対応するべきか~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~
・第4回国連ビジネスと人権フォーラム参加報告~下田屋毅氏の欧州CSR最新動向~
【CSOネットワーク】
・ 「第4回国連ビジネスと人権フォーラムについて(報告)」
・エレン・マッカーサー財団インタビュー
【レスポンスアビリティ”サスナビ!”】
・ 欧州ここだけの話
【サステナビリティ・コミュニケーション・ハブ】
・共感を呼ぶ、行動につなげる「サステナブル・ストーリングテリング」
・企業のESG情報はどのように収集・活用されているか(ブルームバーグ)
・マークス&スペンサーが実践するサステナビリティ
【ZUUオンライン】
・現代に潜む「奴隷制」ーー世界が日本企業の対応を注視している
・企業は新興国とどのようにビジネスすべきか
・SDGs は企業の世界戦略の新潮流となるか
・日本企業が見習うべき「欧州CSR優良企業」5選(後編)
【シータス&ゼネラルプレス】
・CSVとネスレの人権に関する取り組み:後編(2014/5/6)
・CSVとネスレの人権に関する取り組み:前編(2014/5/6)
【ブレーンセンター】
・英国現代奴隷法、日本企業はどう対応するべきか
・CSRの推進に不可欠な社内浸透教育の重要性
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サステイナビジョン ( Sustainavision Ltd. Company No. 7477687)
下田屋 毅
Takeshi Shimotaya (MBA, MSc, CSR-P, 環境プランナーER)
Managing Director, Japan Foundation London CSR Seminar project adviser
ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当科目:CSR/サステナビリティ)
住所: International House, 24 Holborn Viaduct, City of London, London EC1A 2BN, The United Kingdom
Website: http://www.sustainavisionltd.com/
Twitter: @tshimotaya
Facebook: http://www.facebook.com/sustainavision
在英日本商工会議所会員企業
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