[:ja]2016.3.3 Sustainavision Monthly News Letter Vol.31 : 英国現代奴隷法への対応

ロンドン在住サステナビリティ/CSRコンサルタント・サステイナビジョンの下田屋です。
ニュースレターが大分ご無沙汰してしまいましたが、皆さんはいかがお過ごしですか?

このニュースレターは、欧州・英国ロンドンからCSR(企業の社会的責任)/サステナビリティについて、ご連絡をさせていただいております。(お名刺交換をさせて頂きました方、当社主催の講習会にご参加頂ききました方、欧州CSR戦略和訳のダウンロードをして頂いた方等ご縁があった方々にご連絡をさせていただいております。)

(Monthly News Letterの定期購読はこちらから)

modern-slavery-training-hero                    Photo: Ethical Trading Initiative

現代奴隷法2015(Modern Slavery Act 2015 )が、英国で2015年3月26日に制定され日本企業にも影響があることを以前お伝えさせていただきました。今回は、この現代奴隷法へ企業が対応するにあたり、関係団体やNGOに直接話を聞いていますので、それをシェアしたいと思います。

現代奴隷法2015は、企業に「奴隷・人身取引声明」を会計年度に1度発行することを求め、企業のサプライチェーン上に、強制労働や人身取引などの人権侵害の有無やリスクを確認させるためのものです。対象は、英国で活動する企業の世界での売上高3600万ポンド(約60億)を超える企業で、英国と英国外の1万2千社が対象となっており、この中には、英国に子会社を持つ多くの日本企業が含まれています。そして、2016年3月31日以降に会計年度が終了する企業から、2016年4月1日から声明による報告をすること義務付けられています。

現代奴隷法がなぜ成立したのか?ということですが、現代の奴隷制が英国で現実に行われていることが確認されるできごとが5-6年前から知られるようになり、メディアで取り上げられるようになりました。そしてそれらは企業のサプライチェーン上で発生しているということがわかり、それらを根絶するために先進的に取り組みを始める企業が出てきました。

しかしながら、現代の奴隷制が企業のサプライチェーン上にあることを進んで取り上げることにより、先進的に取り組むが故に目立ってしまい、また「現代の奴隷」という言葉があまりにも強いために、先進的な取り組みをしている企業が矢面に立たされる状況が出きてしまいました。

しかしながら現代の奴隷制は陰に潜んでおり、普段は表にでない状況であり、多くの影響のある企業が取り組みをしなければ、この問題が進展することはありません。そこでこの法令を制定することにより、先進企業がこの現代の奴隷制に取り組みをしやすくすること、また、企業を含む社会全体で根絶へ向けた取り組みを進めることが必要ということで、市民社会、NGO、関連団体のロビーイング活動を行い、その末に法律が制定されることになったのです。

現代奴隷法については、既に2015年10月29日に奴隷・人身取引声明についてのガイドラインである「Transparency in Supply Chains etc. A practical guide」を発行しています。

このガイドラインですが、Ethical Trading Initiative(ETI)やAnti-Slavery International、British Retail Consortium(BRC)など現代奴隷法の制定に携わったNGOや関連団体が、このガイドラインの作成にも携わっています。英国の現代の奴隷制の根絶を担当するHome Officeがこのガイドラインを発行し、ガイドラインには、企業がどのようにこの現代奴隷法に対応すればよいのかが詳細に書かれています。

現代奴隷法の要求事項では、4月1日から「奴隷と人身取引に関する声明」を公表することとなっています。これは法律であり、法令順守をしなかった場合には、無制限の罰金が科せられることとなっていますが、この法令の面白いところは、罰則により機能させる仕組みではないところです。

この法律が求めている仕組みは、英国政府が企業の発行する声明を精査することはせず、英国において市民社会、NGOのプレッシャーが強いことを利用して、企業に透明性を強要し、市民社会、NGO、大学の研究者、がWeb上で上がっている声明を精査することで、市民社会の監視の目を使用するというところです。

また、他社の声明と比較することにより、それぞれの企業がお互いにどのように実施しているのか、何をする必要があるのかなどを理解し、それぞれ次のステップに活用させることを期待しているということ、また各産業界がこの問題に真剣に取り組みをすることを期待しています。

英国政府に対するアドバイザリーボード
また関連団体は、英国政府に対してアドバイザリーボードを立ち上げようとしています。これはこの法律が今後どのような法律となれば、現代奴隷制を根絶することに貢献できるのかを考え、この法律についてレビューを行い、そして企業が効果的に実施できるような仕組みとなっているのか、仕組みが機能していない場合どこを変更する必要があるのかを伝える役割を持ちます。

NGOの対応
さらにNGO側については、4月1日以降順次発行される声明を精査することを考えており、各企業が公表した声明をCore CoalitionというWebsiteに集約することを現時点で考えているようです。

またNGOは、声明が不十分であった場合にそのことで攻撃をすることは考えておらず、むしろ企業がこの問題に取り組みをしやすいようにサポートすることを考えています。近々にNGOの視点から現代奴隷法のガイドラインを発行することも考えているようです。

企業の取るべきステップ
企業の取るべきステップとしては、以下が期待されています。

1.最初の年に企業がサプライチェーンの全てを確認することは不可能であるので、企業が自社とサプライチェーン上で奴隷制の問題を仮定して方針を作成すること。またどのようにこの現代の奴隷制に取り組んでいくのかを含む今後のプランを立てること。多くの事を最初の年に求めてはいないようです。

2.2年目は、この現代の奴隷制に取り組むプランに沿って、専門家を巻き込んで、どこに問題があるのかを確認していく作業となります。現代の奴隷制の影響を受けているのは誰か。それらを特定し、実行し、問題がないかを確認していくこととなります。ガイダンスには、毎年ステップアップしなければならないと記載されており、プランを実行して毎年ステップアップすることが期待されています。

また声明には、現代奴隷制の犠牲者が見つかった場合には、調停され、その奴隷制の活動がストップされることが確認されるようにすることも求められています。

英国における関連するイニシアティブが提供するサポートは以下のとおりです。

1.Stronger Together Initiative

strongertogether logo企業へ向けてサプライチェーン上の奴隷制を理解するために、ベストプラクティス、ガイダンス、ツール、ビデオを開発し、またトレーニングやセミナーも提供しています。

ビデオ教材:The true story of Daniel and Weronika who were victims of Modern Slavery

無料の教材のダウンロード: http://stronger2gether.org/resources/

2.Ethical Trading Initiative(ETI)

ETI logoETIのメンバー企業向けに、ETIベースコードを提供しています。また全ての企業に現代奴隷法の対応に関する研修を提供しており、日本企業も参加することが可能です。

今後のワークショップ予定
08/03/2016 – 10:00 to 17:00
09/03/2016 – 09:00 to 16:00
14/03/2016 – 10:00 to 17:00

ETIの上記研修へのリンクはこちら
http://www.ethicaltrade.org/training/modern-slavery-act-your-business-ready

3.Anti-Slavery International

ASI logo
175年に及ぶ世界最古のNGOで、この英国現代奴隷法の対応として、企業向けのサプライチェーン透明性におけるコンサルティングサービスを行っています。

● 上記コンサルティングサービス
http://www.antislavery.org/english/what_we_do/slavery_and_what_we_buy/supply_chain_transparency_consultancy.aspx
● 上記コンサルティングサービス詳細PDFダウンロード
http://www.antislavery.org/includes/documents/cm_docs/2016/a/asi_consultancy_leaflet.pdf

4.英国政府Home Office主催のModern Slavery Act Workshopの開催

2016年3月21日に英国政府主催の企業向けのワークショップが開催されるようです。

日本企業も参加できるようですが席に限りがあるようです。ご関心のある方は英国Home Office Modern Slavery Unitまでお問合せください。

この現代の奴隷制を根絶するための法律の制定は、英国のみならず、米国やフランスでも検討が始まっており、欧州の他の国々でも検討を始めているようです。
このような中で、日本企業は、英国の現代奴隷法に対応することを考えるのではなく、既に現代の奴隷制の根絶に向けた法令ができあがってくるトレンドを考えて、世界的な視野で対応することが必要だと考えます。(了)


<第2回ビジネスと人権研修の開催について>
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・日時:2016年4月21日(木)・22日(金) 両日とも9:00~17:00
※日程について、講師の来日の都合で3月から4月へ変更させていただきました。3月をご予定頂いていた方大変申し訳ございません。日程の変更をお願いいたします。
・場所:東京都港区
・定員:16名
参加申し込みが始まりました。参加をご検討されている場合は、お早目にお申込みください。

団体割引、NGO/NPO、大学関係者、公務員、中小企業割引、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン割引あり
お申込み・お問合せはこちら

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<英国IEMA認定CSR資格講習の開催について>

・日時:2016年3月7日(月)・8日(火) 両日とも9:00~17:00
・場所:東京都港区
・定員:15名
残席わずかですが、参加をご希望の場合には、まだ間に合いますのでお早目にお申込みください。

(団体割引、NGO/NPO、大学関係者、公務員、中小企業割引あり
お申込み・お問合せはこちら
※2016年は2回(3月と10月)開催予定です。

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【エナジェティック・グリーンイベント】
「東京オリンピック・パラリンピックに向けて何をすべきか ~英国現代奴隷法と外国人技能実習制度~」
開催日:2016年3月22日(火)13時~17時(開場12時30分)
サステイナビジョン下田屋が英国現代奴隷法についてお話させていただきます。
このセミナーでは、国際人権NGOのVeriteや、国際移住機関駐日事務所、国際人権NGOのUnseen Initiative/Human Rights Watchの方々も登壇されます。世界での現代の奴隷制に関する情報や、今後日本が直面していく労働力不足についてどのように補うのか、外国人技能実習生の雇い入れの際の問題など日本が抱える人権問題にも触れるセミナーとなります。
席が限られているようですので、ご関心のある方は、是非お早目にお申込みください。
お申込み:http://energeticgreen.com/blog/2016/02/26/seminar0322/

【Innovation Forum イベント】
弊社とInnovation Forumとの提携によりコード「 SustVision15」をお申込みの際に入力されますと以下のイベントが15%割引となります。

・Sustainability for smallholders
How to build supply security and resilience with smallholder farmers
開催日:2016年3月22日・23日
場所:ロンドン
※小規模農家のための主要なリスクに対処し将来のサプライチェーンのための解決策に焦点を当てています。

Sustainable extractives forum
How to manage risk and navigate uncertainty
・開催日:2016年4月27日・28日
・場所:ロンドン
※採取産業(石油・ガス・鉱物資源等の開発)のリスクを管理し、不確実性をナビゲートする方法を議論します。

・How business can tackle modern slavery and forced labour
・開催日:2016年5月5日(火)
・場所:ロンドン
※法律から実際の行動へ:現代奴隷法の対応の報告方法、リスク管理、業務/サプライチェーン上から奴隷制を根絶するのに役立ちます。

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<編集後記>

前回12月にニュースレターを発行してから大分時間が経過してしまいました。
しかしながら、1月そして2月の初めまでセミナーを開催させていただき皆さんにお会いさせていただく機会も多かったのではないかと思っており私としては非常に有意義な期間となりました。

1月20日にはグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GC-NJ)様とともに「CSRセミナー~国連ビジネスと人権フォーラム報告会~(於:上智大学)」にて、「ビジネスと人権フォーラムの今までの概要」についてお話をさせていただき、また、その後登壇者他5名の方々の紹介とQ&Aセッションのモデレーターをさせていただきました。当日は約80名の方が参加されビジネスと人権に関する関心の高さが伺えました。

また、それ以外に、「英国現代奴隷法2015」のセミナーを様々な組織の方々とご一緒させていただきました。GC-NJ様で2回、EICC勉強会様、NGO人権研究会様、JETROアジア経済研究所様にて1回ずつの計5回をお話させていただきました。しかしながら、この英国現代奴隷法2015は、日本企業においてはどこまでが声明を報告する必要があるのか?という部分において法律が曖昧で解釈が難しく、またその点においては私からもお伝えすることができないので、参加者の方々におかれましては不完全燃焼の方もいらっしゃったのではないかと思われます。

2月初旬に再びロンドンに戻りまして、国際人権NGO、関連団体である、「Anti-Slavery International」「British Retail Consortium(BRC)」「Ethical Trading Initiative(ETI)」などを再度訪問、また、「Unseen Initiative/Human Rights Watch」また、「Stronger Together」の方にもお話を新たにお聞きいたしました。その上での見解を今回のニュースレターに反映させていただいておりますので、是非お読みいただければ幸いです。

また、どの企業が声明を発行する必要があるのかという部分においては、上記NGOや団体にお聞きしていく中で、やはりそれぞれの思惑や思いの中で法律が制定されているのが感じられました。NGO寄りであれば拡大をして企業に発行をうながし、ビジネス寄りであれば最低限の部分での解釈になるという、それぞれの見解が違うことも今回わかりました。また英国と日本の弁護士資格を持つ方にもお話をお聞きしましたが、企業の組織構造など違いがあるので、どの企業が出すべきであるのかということは個別に対応するしかないということでした。今回この弁護士の方のご厚意により日本にてセミナーを4月にご一緒させていただくことになりました。英国腐敗防止法と現代奴隷法の比較を含めた解説をしていただけるのではないかと思います。こちらについては追ってまたご連絡させていただきます。

また、既にイベントの告知でお伝えさせていただきましたが、3月22日には、エナジェティックグリーン主催の「東京オリンピック・パラリンピックに向けて何をすべきか ~英国現代奴隷法と外国人技能実習制度~」にて、英国現代奴隷法についてお話させていただきます。このセミナーでは、国際人権NGOのVeriteや、国際移住機関駐日事務所、国際人権NGOのUnseen Initiative/Human Rights Watchの方々も登壇されます。世界での現代の奴隷制に関する情報や、今後日本が直面していく労働力不足についてどのように補うのか、外国人技能実習生の雇い入れの際の問題など日本が抱える人権問題にも触れるセミナーとなります。席が限られているようですので、ご関心のある方は、是非お早目にお申込みください。

また、私の今回の滞在のメインとしては、英国IEMA認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習(3/7・8)、そして、ビジネスと人権研修(4/21・22)の開催もあります。これらの講習では、体系的にCSRや人権について学ぶことができるとともに、日頃私がロンドンで入手している情報を時間が許す限り全てお伝えする予定としています。そういった意味では今回の講習会の参加者の方々にお会いさせていただくのも非常に楽しみにしています。

今年は、桜が咲く時期に日本に滞在することになりますので、約9年ぶりくらいの花見も楽しみです。
それではもしセミナーなどで私を見かけましたら是非お声かけいただければ幸いです。
引き続き今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
(サステイナビジョン下田屋)

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CSRの推進に不可欠な社内浸透教育の重要性(その1)
CSRの推進に不可欠な社内浸透教育の重要性(その2)
CSRの推進に不可欠な社内浸透教育の重要性(その3)

 

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サステイナビジョン ( Sustainavision Ltd. Company No. 7477687)
下田屋 毅
Takeshi Shimotaya (MBA, MSc, CSR-P, 環境プランナーER)
Managing Director, Japan Foundation London CSR Seminar project adviser
ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当科目:CSR)
住所: International House, 24 Holborn Viaduct, City of London, London EC1A 2BN, The United Kingdom
Website: http://www.sustainavisionltd.com/
Twitter: @tshimotaya
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