[:ja]2015.12.18 Sustainavision Monthly News Letter Vol.30 : 第4回国連ビジネスと人権フォーラム

ロンドン在住サステナビリティ/CSRコンサルタント・サステイナビジョンの下田屋です。
年の瀬が押し迫ってまいりましたが、皆さんはいかがお過ごしですか?

このニュースレターは、欧州・英国ロンドンからCSR(企業の社会的責任)/サステナビリティについて、ご連絡をさせていただいております。(お名刺交換をさせて頂きました方、当社主催の講習会にご参加頂ききました方、欧州CSR戦略和訳のダウンロードをして頂いた方等ご縁があった方々にご連絡をさせていただいております。)

さて、今回は、11月16日~18日までジュネーブで開催された「第4回国連ビジネスと人権フォーラムについて」についてご報告させていただきます。

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第4回国連ビジネスと人権フォーラム
国連主催の第4回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2015年11月16日~18日にスイス・ジュネーブにおいて開催されました。このフォーラムは「ビジネスと人権に関する指導原則」が、2011年6月16日に国連において、全会一致で承認され、この指導原則の普及を目的として、2012年から年次開催されることとなったもので、筆者は、前年、前々年に続き参加の機会を得ました。

ビジネスと人権フォーラムの参加登録数は年々増加、2012年の第一回は1000人だったのに対し、2015年の第四回は、130か国から2300人が参加し関心がより高くなっています。日本関係者は全体で25人前後とみられ2014年(15人前後)よりも参加者数は増加しました。

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写真:下田屋毅撮影

この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、①国家による人権保護の義務、②人権を尊重する企業の責任、③人権侵害を受けた者への救済へのアクセス、から構成され、「人権の尊重」、「救済へのアクセス」に関して企業の取り組みが必要とされています。

国連ビジネスと人権フォーラムは、世界の全地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話の為の主要な会合の場所を提供し、効果的で包括的な指導原則の導入へ向けたエンゲージメントを強化することなどを主要目的としています。

開会の辞

第4回目である2015年の議長は、メキシコ出身の国連グローバル・コンパクトセンター・ラテンアメリカ・カリブ海地域サポートエグゼクティブ・ディレクターのダイアナ・チャベス氏がメキシコ系ラテンアメリカから、そして女性で初めて議長を務めました。

開会の辞において、ダイアナ・チャベス氏は、2015年のフォーラムのテーマである「進捗状況の検証と一貫性の確保」を紹介するとともに、「人権侵害に対処するための国家、企業がコミットメントを行った内容は、実際の行動に移されなければならない。」と述べ、その中で、「国家行動計画の導入による政治的コミットメント、企業の人権デューディリジェンス、苦情処理メカニズムと負の影響の緩和、企業の社会的価値を強化することを目的とした予算配分と意思決定を通じた取締役会のサポート」について強調しました。また、国連ビジネスと人権作業部会の議長であるマーガレット・ユンク博士は、「我々は法律やプロセスについて話をするためだけにここにいるのではない。これらは重要だが、究極の目的は、紙上だけではなく、会議場でだけではなく、現実に企業の人権の慣行を改善することだ。」と述べ、より実効性のある議論を行うこと、そしてその後の行動を求めました。

フォーラムで注目された議論
今回のフォーラムのトピックでは、「国家行動計画の導入」「条約締結による法規制化への動き」、「先住民族の人権侵害の訴え」「現代の奴隷制の排除へ向けた取り組み」、「メガ・スポーツ・イベント」などを中心に3日間で約60のセッションが開催されました。

国家行動計画の導入
「国家行動計画」については、既に欧州を中心として導入されており、現段階で、国家行動計画を作成し導入している国は、英国(2013年9月)、オランダ(2013年12月)、イタリア(2014年3月)、デンマーク(2014年4月)、スペイン(2014年6月)、フィンランド(2014年10月)、リトアニア(2015年2月)、スウェーデン(2015年8月)、ノルウェー(2015年10月)で、さらに多くの国で導入に向けた取り組みが始まっていることが伝えられました。米国やドイツでは導入に向けた取り組みをする上で、企業を含むステークホルダーとのコミュニケーション、エンゲージメントを非常に活発に行っており、作成の過程においても、人権への意識が高まる効果が出てきているとのこと。まだアジア、アフリカで行動計画を持っている国はありませんが、今回アジアでは、韓国が国内人権機関を中心として取り組みを始めたことを開会式のパネルディスカッションなどで披露しました。

条約締結による法制化への動き
今回のフォーラムで、昨年に続き注目されたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起され決定された国際的な条約締結による法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての第26回国連人権理事会決議26/9についてです。条約締結による法制化を提起したエクアドルから、常任委員のマリア・フェルナンダ、エスピノーサ氏がフォーラムにおいてスピーチしました。彼女は、この条約による法規制化の動きにについて「既にこの条約による法規制化へのプロセスは始まっており、国際的な関心を得ている。大学関係者、市民団体、NGOが協調し、“Treay Alliance”を結成、1000を超える世界のNGO、そして様々な国々がこのプロセスに賛同し取り組んでいる。」と話し、また2015年7月に開催された国連人権理事会の作業部会での議論についても説明があり、セッションにおいてはディスカッションが活発に行われました。そのディスカッションにおいては、「条約による法制化には時間がかかる。その法制化の動きを進めていくとともに、企業は指導原則の導入を進め、各国では国家行動計画を所持し、ビジネスと人権の課題に対して取り組みを行っていく必要がある」ことが強調されました。

現代奴隷制を含む強制労働、人身取引排除へ向けた取り組み
人身取引、強制労働を排除するための取り組みに関する報告がありました。米国からは、それらを規制する「米国連邦調達規則」の改訂、そして英国政府からは「現代奴隷法2015」が制定されたのを受けてその内容について説明がありました。発展途上国だけでなく、先進国においても現代における奴隷労働が発生していることや、サプライチェーン上での奴隷労働の事例などの発表があり議論がなされました。

先住民族の訴え
今年も、南米、中南米、そして東南アジアから、企業による人権侵害を受けた先住民族の方々が、その状況を伝えるために民族衣装を着てフォーラムに参加をしていました。先住民族は、事前の告知による同意なしに、政府や企業が勝手にプロジェクトを実施し、多くの先住民族は、そのプロジェクトの影響で強制立退きや避難を余儀なくさせられています。今まで先住民族のコミュニティは、抗議活動などを行うと共に、対話、交渉、調停機構を通じて、政府や企業と相対してきました。しかし残念ながら、国や企業は、先住民族のコミュニティの抵抗を阻止するために、大規模で残忍な弾圧を行ってきた現状があるようです。そのような現状を伝える一つの手段として、2日目の開会式が始まる直前に、先住民族の方が中央の通路を小さな列を作って会場中に響き渡るように先住民族の唄を歌い、そしてステージ前に整列し人権侵害について訴える一幕もあり、また、先住民族の代表が閉会式においては、2014年の第3回ビジネスと人権フォーラムで実施された「先住民族の幹部会議宣言」を再び述べ、その後何も措置も取られていないことに大きな懸念を表明するとともに、今後開催されるビジネスと人権フォーラムにおける発言の場をより多く先住民族が確保できるように提案がなされました。

メガ・スポーツ・イベントに関連する人権侵害
オリンピック・パラリンピック、FIFAワールドカップなど大きなスポーツイベントにおける人権侵害に関するセッションが開催されました。スポーツのイベントに関する人権侵害をkのフォーラムで取り上げるのは、今回が初めてとのこと。近年メガ・スポーツ・イベントは、サプライチェーンや施設建設において、人権への悪い影響を与える活動が強く監視されています。強制的な立退きや居住権の問題は、南アフリカやブラジルにおいては繰り返し発生しているテーマであり、会場の建設とインフラ整備における職場での人権侵害、移民労働者からの搾取、現代の奴隷制の問題など、北京、ソチ、カタールにおいて主要な関心事となっています。このセッションに先駆け、IHRB(人権ビジネス研究所)は、「Striving for Excellence: Mega-Sporting Events and Human Rights」を2015年10月に改訂しています。経済人コー円卓会議日本委員会事務局長 石田寛氏は、「CRT日本委員会だけではこの大きな問題に立ち向かうことは難しい。IHRBや人権作業部会、そして海外の国際NGOと連携をして取り組みをしていきたい。また、IHRBとともに東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に人権声明を手渡した。東京オリンピック・パラリンピック2020大会まであと5年しかないが、協働をして解決策を探していきたい。」と述べました。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、大会準備運営局長杉浦久弘氏は、このセッションにおいて「東京オリンピック・パラリンピック2020大会に向けた準備を2015年夏より開始し、持続可能な調達基準については、IOCの基準に則り行っており、ロンドンオリンピック、パラリンピックの知識、経験を参考として日本特有の文化と慣習を反映して作成していく。」と述べました。またその上で「幅広く様々な意見を受け入れ参考にしていくのでアドバイスをいただきたい」と述べ人権にも配慮していくことを強調しました。

閉会式
閉会式において、国連ビジネスと人権作業部会議長のマーガレット・ユンク博士は、企業の事例として米国の非鉄金属大手「アルコア社」の話を紹介しました。CEOポール・オニール氏が、災害ゼロのみに焦点を当て、不安全な状況を是正していったところ、作業場の改善が進み災害はほぼゼロとなり、利益率が400%となったということ。その上で、ユンク博士は、「この話が指し示しているのは、企業が意志を持っている時には、計り知れない力と企業が改善する能力を発揮できるということである。」と述べ、企業が存続していく為の、企業のモラルと法的義務を遂行する側面とともに企業の恩恵の側面についても継続して伝えていくことを強調しました。そして、全ての国家がビジネスと人権に関する国家行動計画を導入すること、ビジネスと人権に関する指導原則のより多くの普及、そして救済へのアクセスの取り組みの強化について促しました。

この第4回国連ビジネスと人権フォーラムの印象としては、引き続き企業による人権侵害が行われている実態があり、さらに現代における奴隷労働の問題もクローズアップされ、企業が自社のサプライチェーン上の人権問題について確認がより求められる状況となっています。企業に関わる人権は、多くの問題が発生しており、日本企業も例外ではありません。現段階では、企業内部では、人事、CSR部門、調達部門がそれぞれの仕事の中で人権課題に対応していると思いますが、それぞれの部門が共通認識を持ち、より密接に行動することが求められています。

このフォーラムは、登録制だが誰でもが参加できるものです。次回2016年のフォーラムの日程は2016年11月14日~16日と既に決定しています。国家、企業、市民社会それぞれの立場から、指導原則に関する情報収集の場として、また取り組みや意見を発する場として是非次回は足を運び、世界のビジネスに関わる人権の議論に加わり、今後の実践にさらにつなげる機会としていただければと思っています。(了)

第4回国連ビジネスと人権フォーラム公式Website:
http://www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Forum/Pages/2015ForumBHR.aspx

<第2回ビジネスと人権研修の開催について>

・日時:2016年4月21日(木)・22日(金) 両日とも9:00~17:00
※日程について、講師の来日の都合で3月から4月へ変更させていただきました。3月をご予定頂いていた方大変申し訳ございません。日程の変更をお願いいたします。
・場所:東京都港区
・定員:16名
参加申し込みが始まりました。参加をご検討されている場合は、お早目にお申込みください。

団体割引、NGO/NPO、大学関係者、公務員、中小企業割引、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン割引あり
お申込み・お問合せはこちら

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<英国IEMA認定CSR資格講習の開催について>

・日時:2016年3月7日(月)・8日(火) 両日とも9:00~17:00
・場所:東京都港区
・定員:15名
もう既にお申込みが始まっております。参加をご希望の場合には、お早目にお申込みください。

(団体割引、NGO/NPO、大学関係者、公務員、中小企業割引あり
お申込み・お問合せはこちら
※2016年は2回(3月と9月OR10月)開催予定です。

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【Innovation Forum イベント】
弊社とInnovation Forumとの提携によりコード「 SustVision15」をお申込みの際に入力されますと以下のイベントが15%割引となります。

・Sustainability for smallholders
How to build supply security and resilience with smallholder farmers
開催日:2016年3月22日・23日
場所:ロンドン
※小規模農家のための主要なリスクに対処し将来のサプライチェーンのための解決策に焦点を当てています。

Sustainable extractives forum
How to manage risk and navigate uncertainty
・開催日:2016年4月27日・28日
・場所:ロンドン
※採取産業(石油・ガス・鉱物資源等の開発)のリスクを管理し、不確実性をナビゲートする方法を議論します。

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<編集後記>
今回は、11月にジュネーブで開催された国連ビジネスと人権フォーラムについてお伝えさせていただきました。このフォーラムは2015年で4回目を迎え、その場での議論はもちろんですが、世界のビジネスと人権のネットワーキングを広げる非常に良い機会となっています。私もここ何年かで知り合いになった方々と事前に連絡を取り合ってミーティングをさせていただくなど機会を最大限活用しています。是非2016年には現地へ足を運んでいただければと思います。
また、この第4回国連ビジネスと人権フォーラムの報告会をグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン様とともに2016年1月20日に開催し発表とともにモデレータをさせていただく予定としています。そちらでも現地でのお話を他の日本人の参加者の方々とともにお話をさせていただきます。

また、1月21日にもグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン様とともに英国現代奴隷法2015についてセミナーを開催させていただく予定としています。ロンドンの国際NGOである、「Anti-Slavery International」「Environmental Justice Foundation」「British Retail Consortium」「Ethical Trading Initiative」などを訪問、また電話ミーティングをさせていただき英国現代奴隷法が出来たいきさつや現状などもお聞きしました。それらの内容や要求事項についてお伝えしたいと思っています。

その他2015年11月には、「Deforestation」「CR and Communication」「Supply chain」「Sustainable Consumer」「Sustainable Seafood Sourcing」などなどのカンファレンスにも参加していますが、今回のニュースレターでは伝えきれないので、これらについては追ってお伝えできればと思っています。

年末年始は8年ぶりに日本で過ごす予定としています。久しぶりの日本のお正月を楽しみたいと思います。皆さんも、どうぞ風邪などひかれないようにご自愛ください。
本年もいろいろとお世話になりました。また来年もどうぞよろしくお願いいたします。どうぞ良いお年をお迎えください。

(サステイナビジョン下田屋)


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