2014.12.24 Sustainavision Monthly News Letter Vol.23 : 第3回国連ビジネスと人権フォーラム
いつも大変お世話になっております。ロンドン在住CSRコンサルタント・サステイナビジョンの下田屋です。
英国ではもうすぐクリスマスを迎えようとしていますが、クリスマスは英国では家族が集まるとても大事な日になっています。日本の元日のような雰囲気があり、実は公共交通機関が全てストップし、お店もほとんど閉まる日でもあります。。。
さてこのニュースレターは、欧州・英国ロンドンからCSR(企業の社会的責任)につきまして、ご連絡をさせていただいております。(お名刺交換をさせて頂きました方、当社主催の講習会にご参加頂ききました方、欧州CSR戦略和訳のダウンロードをして頂いた方等ご縁があった方々にご連絡をさせていただいております。)
さて,今回は、第3回国連ビジネスと人権フォーラムに12 月1日~3日まで参加してまいりましたので、その内容についてご報告させていただきます。
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国連主催の第3回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2014年12月1日~3日にスイス・ジュネーブにおいて開催され、昨年に続き参加いたしました。このフォーラムは、2011年6月に国連人権理事会において承認された保護、尊重、救済のフレームワークである「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の普及を目的として、2012年から年次開催されることとなったものです。
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この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、全ての国家と全ての企業に適用され、「国家による人権保護の義務」「人権を尊重する企業の責任」「企業活動による人権侵害を受けた者への救済」の「保護、尊重、救済」の3つの柱をフレームワークとして、国家と企業が実施することを明確にし31の「原則」に整理されたものです。そしてビジネスと人権フォーラムは、次を主要目的としています。
①世界の全地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話の為の主要な会合場所を提供する。
②指導原則を世界に拡散し実施の促進、また効果的で包括的なエンゲージメントの強化。
③指導原則の実施にあたりトレンドと課題、模範事例を見つける手助けをすること。
ビジネスと人権フォーラムは、2012年の第一回の参加登録者数は、1000人、2013年の第二回は1700人、そして2014年の第三回は2000人ということで年々参加者数が増え関心が高くなってきています。日本関係の政府・企業・NGO・大学に関する参加登録者ですが、独立行政法人からジェトロ・アジア経済研究所、一般企業は、日立製作所、日立ヨーロッパ、NECヨーロッパ、JTインターナショナル、新日本有限責任監査法人、創コンサルティング、サステイナビジョン、NGOからは経済人コー円卓会議日本委員会、大学関係は立命館大学で、日本関係者は全体で15人弱とみられ昨年に引き続き参加者が少ない状況でした。
2014年のフォーラムのテーマは「グローバルにビジネスと人権を推進する:調整・順守・説明責任」。 今回2014年の議長は、第三回目である2014年の議長は、アフリカ出身のイブラヒム財団議長、モー・イブラヒム博士が務めました。ユーモアを交える話ぶりの中にも議長としてのリーダーシップを発揮するものであり、この会議が参加者にとってより有意義で進展のあるものにするように促しているのが非常に印象的でした。モー・イブラヒム博士は、開会式において、既存の「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の周辺には何が来るべきかを問題提起し、「測定」、「監視」、「報告書の公表」について会場に問いかけ。イブラヒム博士は、「各国政府は、国家行動計画を発行しなければならない。企業は、企業の計画を開発する必要がある。市民社会は、国家と企業が計画を出すことを支援する必要がある。しかし、それぞれの計画は単独では十分ではない。我々には、測定のツールと進捗状況を報告するためのツールが必要である。国連ビジネスと人権に関する指導原則は素晴らしいが、誰もこれを導入せず、測定もしていない場合、価値がない。この場合我々はすべての時間を無駄にしている。」と述べ、これらツールの必要性を強調していました。
開会式では、企業側の代表としての講演とパネルディスカッションがあり、ユニリーバCEOのポール・ポールマン氏、そしてネスレCEOのポール・ブルケ氏等がそれぞれ基調講演を行い、これら企業が推進するビジネスと人権の指導原則についての先進的取り組みを伝え、ビジネスを行う上での人権の尊重、人権に対する配慮の継続性、そしてトップがコミットメントし、そのリーダーシップを表すことの重要性を訴えました。
今回のフォーラムで、特に注目されたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起され決定された国際的な条約締結による法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての第26回国連人権理事会決議26/9についてです。現時点では、国際的な合意に基づく「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った企業の自発的な活動に委ねられているが、2015年7月には、国連人権理事会の作業部会において条約による法規制化の作業が始められることになっています。法規制化の流れについて補足しますと、この歴史的な背景に、かつて国連で「多国籍企業及びその他の企業に関する規範」が、人権委員会の専門家による補助機関で起草され、本質的に国家が批准した条約の下で人権の義務を直接に企業に課そうとする動きがありました。しかしこの提案は、経済界と人権活動団体との間に埋めることのできない溝を作りだし、政府からの支持もほとんど受けられず、国連人権委員会は、この提案に関し意思表明をすることさえしませんでした。そのことを踏まえ新たな取組みとして、2005 年に「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に取り組むためにジョン・ラギー氏が国連事務総長特別代表に任命され、広範にわたる体系的な調査研究の末、2011年に発表したのが「国連ビジネスと人権に関する指導原則」なのです。このような歴史的な背景から、この条約による法規制化が、国連ビジネスと人権に関する指導原則の進展を弱める可能性があるとの懸念が指摘されていました。
今回は、その条約締結による法規制化を提起したエクアドルのサイドイベントが2回開催され、エクアドル国連代表参事官ルイス・エスピノーサ・サラス氏が、エクアドルが提起にいたった理由を述べるなど関連するディスカッションが活発に行われました。そして決議26/9として作業部会が2015年7月から議論が始まりますが、それまでの間にこの活動を効果的に進めることができるように、エクアドルは共同で提起した南アフリカなどと活動をしていくとのことです。またエクアドルのルイス・エスピノーサ・サラス氏は、閉会式においてもパネルとして出席しスピーチを行い、多国籍企業による人権侵害が防ぎ切れていないのは国際的な規制がないからであるとし、多国籍企業による効果的な救済と犠牲者への賠償ができるようにと、条約の制定による法規制化の必要性を訴えました。
閉会式で一番大きな拍手を受けていたのは、アムネスティ・インターナショナルのグローバル問題担当オードリー・ゴーグラン氏のスピーチです。「3年前の指導原則が出る前から状況は変わっていない」、また「今こそ条約による規制化が必要である。我々には条約が必要なのである。」と述べ、人権侵害を食い止め救済を行えるようにする法律の必要性を訴えました。
閉会式の中で付言として、前国連事務総長特別代表であるジョン・ラギー教授がスピーチ。指導原則が適用されている場所においては一定の効果を上げていることを強調し、「指導原則は魔法ではないので、導入しようとしなければその効果を発揮することができない」と述べました。また指導原則の導入とさらなる国際的な法制化に本質的な矛盾はないとしましたが、現在エクアドルなどから提起されている条約制定については、「多国籍企業だけを取り上げるのは問題であり、国内の企業を含むすべての企業が対象となるべきである」と事例を挙げて伝え、「効果のない条約は数多く存在し、その実効性には疑問がある」とし、「今までどおり指導原則の導入にあたり、一歩一歩着実に進むことが非常に重要だ」と述べ指導原則をこれまで以上に推進をしていくことを促しました。
この第3回国連ビジネスと人権フォーラムの印象としては、条約による法制化を求める大きな流れの中で指導原則をどのように進めていくのかについて議論をする非常に重要な位置づけであったと認識しています。そして企業による指導原則の推進事例の紹介、NGOのそれぞれの立場からの意見の発信、また先住民族の方々が涙ながらに企業の人権侵害を訴える状況を目の当たりした、世界で起きている企業の人権への取り組みと人権侵害について肌で感じることができるものであり、様々なステークホルダーとの対話ができる実践的で有意義な機会であったと考えています。
このフォーラムは、登録制ですが誰でもが参加できるものです。次回2015年のフォーラムの日程は、既に2015年11月16日~18日と決定しています。 日本企業の方は、指導原則に関する取り組みや意見を発する場として是非足を運び、世界のビジネスに関わる人権の議論に加わって、今後の実践にさらにつなげる機会として欲しいと思います。(了)
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英国の調査機関のレポートによると、世界における人権侵害は、2008年から70%も上昇し、労働者の権利侵害は深刻化しているといいます。企業が関わる人権の問題は、国境を越えサプライチェーン上においてカバーしなければならない最重要項目であり、海外において人権侵害を訴えられ、NGOなどから非難されることも実際に起こっています。そのような中、2011年6月に国連人権理事会にて「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認され、この国際的な基準に則って、国と企業がそれぞれ役割を果たすことが期待されています。本研修は、海外のグローバル・コンパクトのネットワーク(ドイツ・英国・スイス・オーストリア・ケニア・インドネシア・ウクライナ)にて導入されるなど、海外で効果を上げている「ビジネスと人権に関する指導原則」研修を日本においても開催し、日本とグローバルの人権意識のギャップを埋めるために実施すること、またグローバルでの人権課題について簡潔で実践的なアドバイスを提供いたします。
◆とき:2015年1月22日(木)・23日(金)両日とも9:00~17:00
(コース終了6ヶ月後の振り返りを行う1日学習も含み、計3日間)
◆ところ: 東京都港区(お申込者に事務局よりご連絡致します)
◆対象者: CSR部門、人事部門、資材・調達部門、広報部門、法務・コンプライアンス部門など
◆定員: 16名
◆主催: サステイナビジョン
◆講師: ルーク・ワイルド氏(トエンティ・フィフティ社ディレクター)、下田屋毅氏(サステイナビジョン代表取締役)
◆ゲストスピーカー:白石 理氏(ヒューライツ大阪、所長)、松岡 秀紀氏(ヒューライツ大阪、嘱託研究員)
◆参加費:
通常料金 個人 : 145,000円
国連グローバル・コンパクトJN加盟企業:110,000円
ニュースレター購読割引15% : 123,250円
◆お申込み・お問い合わせ⇒http://www.sustainavisionltd.com/bandhr/
◆詳細説明PDF:http://www.sustainavisionltd.com/wp-content/uploads/2014/12/Business-Human-Rights-training-Jan2015-V1.pdf
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<編集後記>
記事にもありますとおり、12月1日から3日まで第3回国連ビジネスと人権フォーラムに参加してまいりました。昨年に続いての参加ですが、昨年の「第2回ビジネスと人権フォーラム」にて出会った方との再会や、最近ロンドンのビジネスと人権のイベントでお会いした方との再会もあり、非常に多くの方とさらなる交流を深めることができました。また、この第3回のフォーラムにおいてもさらに世界の他の地域と繋がることができるなど、ビジネスと人権に関する新たなネットワークを広げることができました。この繋がりを大事にして日本の企業の皆様により貢献ができるようにしていきたいと考えています。
また今回は、サステイナビジョンでインターンシップを行っている英国の大学院を今年修了した3名(岩間莉絵さん、宮川佐知代さん、西野真太さん)もフォーラムに参加をしてくれました。しかしまだまだ日本人の参加は少ないと思いますので、来年はより多くの日本の方々に参加していただければと思っています。
またこのビジネスと人権フォーラムの中心的な役割である「国連ビジネスと人権に関する指導原則」についての研修を1月22日・23日に実施するので、1月12日より1月下旬まで日本に一時帰国する予定としています。その間は、NGOベター・コットン・イニシアティブのメンバーシップ・エンゲージメント・マネージャーが米国から来日するので、サステイナビジョンでサポートをしている関係で少し企業訪問などをご一緒させていただく予定としているのと、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークの環境経営分科会で1月15日(木)にお話をさせていただく予定としています。またより多くの方々とお会いできることを楽しみにしています。
本年は、本当に多くの方とお会いさせていただき、大変お世話になりました。この御縁に感謝するとともに、皆さまには深く御礼申し上げます。来年も頑張っていく所存でございますので、引き続きご指導の程よろしくお願いいたします。
(サステイナビジョン下田屋)
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世界のCSR&エシカルな潮流の発信地である英国で、英国の企業やNGOがどのようにCSRやエシカルな取り組みをしているのか。どのように社会と「対話」しているのか。その最前線をオルタナ主催で7月初旬の5日間の日程で視察した際の内容をレポートとしてまとめました。
◆視察企業・団体名:
ネスレUK、マークス&スペンサー、ボディショップ、ラッシュ、グリーンピースUK、ハーミーズ(HEOS)、ガーディアン・サステナブル・ビジネス、フェアトレード、レインフォレスト・アライアンス等
◆ページ数:90ページ
◆価格:15,000円 (電子ファイルのみの販売となります)
◆お申込み・お問合せ先:サステイナビジョン
http://www.sustainavisionltd.com/2014-uk-csr-ethical-companies-visit-report/